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神戸地方裁判所 平成9年(ワ)575号 判決 1998年5月21日

原告

山田重機こと山田竜吉

被告

株式会社イノウエ

ほか一名

主文

一  被告らは、原告に対し、連帯して金六三一万七九〇五円及びこれに対する平成八年一一月二九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを八分し、その一を原告の負担とし、その余を被告らの負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告らは、原告に対し、連帯して金七五一万九六七六円及びこれに対する平成八年一一月二九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  本件は、後記交通事故により物損を被った原告が、被告滝川敦(以下「被告滝川」という。)に対しては民法七〇九条に基づき、被告株式会社イノウエ(以下「被告会社」という。)に対しては民法七一五条に基づき、損害賠償を求める事案である。

なお、付帯請求は、本件事故の発生した日から支払済みまで、民法所定の年五分の割合による遅延損害金である。

また、被告らの債務は、不真正連帯債務である。

二  争いのない事実等

1  交通事故の発生

(一) 発生日時

平成八年一一月二九日午前一一時ころ

(二) 発生場所

神戸市西区伊川谷町布施畑二六三番地先 信号機による交通整理の行われていない交差点(以下「本件交差点」という。)

(三) 争いのない範囲の事故態様

本件交差点は、ほぼ北東とほぼ南西とを結ぶ道路と本件交差点からほぼ北西に向かう道路からなる、T字路三叉路である。

被告滝川は、普通貨物自動車(神戸一一ぬ四六四四。以下「被告車両」という。)を運転し、本件交差点を北西から南西へ右折しようとしていた。

他方、訴外山崎義孝(以下「訴外山崎」という。)は、普通貨物自動車(神戸一一ゆ八三二三。以下「山崎車両」という。)を運転し、訴外青木雅也(以下「訴外青木」という。)は、普通貨物自動車(神戸一一ゆ八三二六。以下「青木車両」という。)を運転し、この順に前後して、それぞれ、本件交差点を南西から北東へ直進しようとしていた。

そして、本件交差点内で、まず、被告車両の右側面後部と山崎車両の前面右部とが衝突し(以下「第一衝突」という。)、ついで、被告車両の右側面後部と青木車両の前面右部とが衝突した(以下「第二衝突」という。また、第一衝突と第二衝突とを一括して、以下「本件事故」という。)。

2  車両の所有関係

山崎車両及び青木車両はいずれも原告が所有するものである。

なお、訴外山崎及び訴外青木は、本件事故当時、いずれも原告の業務に従事中であった。

3  責任原因

被告滝川は、第一衝突に関し、右折の際の右方安全確認義務違反の過失があるから、民法七〇九条により、第一衝突により原告に生じた損害を賠償する責任がある。

また、被告滝川は、本件事故当時、被告会社の業務に従事中であったから、被告会社は、民法七一五条により、第一衝突により原告に生じた損害を賠償する責任がある。

三  争点

本件の主要な争点は次のとおりである。

1  本件事故の態様並びに第二衝突に関する被告滝川の過失の有無、第一衝突及び第二衝突に関する過失相殺の要否、程度

2  原告に生じた損害額

四  争点1(本件事故の態様等)に関する当事者の主張

1  原告

(一) 第一衝突は、直進する山崎車両と交差道路を右折しようとする被告車両との間の交通事故である。

そして、訴外山崎にも前方不注視の過失があるが、第一衝突に関する訴外山崎と被告滝川の各過失の割合は、訴外山崎が一〇パーセント、被告滝川が九〇パーセントとするのが相当である。

(二) 第二衝突も、第一衝突と同じ態様の交通事故であり、ただ、青木車両は山崎車両の後続車両であった点で、訴外青木は、事故発生の回避可能性が大きかった。

そして、第二衝突に関する訴外青木と被告滝川の各過失の割合は、訴外青木が四〇パーセント、被告滝川が六〇パーセントとするのが相当である。

(三) 原告に生じた損害は、山崎車両及び青木車両について生じたものである。

したがって、山崎車両に生じた損害については第一衝突に関する訴外山崎の過失割合を、青木車両に生じた損害については第二衝突に関する訴外青木の過失割合を、それぞれ過失相殺として控除するのが相当である。

2  被告ら

(一) 第一衝突の直前、山崎車両は、最高速度五〇キロメートル毎時を大きく上回る時速約八〇キロメートルで走行していた。また、本件交差点に進入したのは、被告車両の方がはるかに早かった。

これらの点を考慮すると、第一衝突に関する訴外山崎と被告滝川の各過失の割合は、訴外山崎が五〇パーセント以上、被告滝川が五〇パーセント以下とするのが相当である。

(二) 訴外青木には、訴外山崎と同様の速度違反、前方不注視の過失のほかに、先行する山崎車両と自車との車間距離不保持の過失がある。

他方、被告車両は、第一衝突のため本件交差点内に停止していたところ、その直後に第二衝突が発生したから、被告滝川には第二衝突を回避することが不可能であった。

したがって、第二衝突に関しては被告滝川には過失はない。また、仮に過失があったとしても、第二衝突に関する訴外青木と被告滝川の各過失の割合は、訴外青木が九〇パーセント以上、被告滝川が一〇パーセント以下とするのが相当である。

五  本件の口頭弁論の終結の日は平成一〇年四月九日である。

第三争点に対する判断

一  争点1(本件事故の態様等)

1  甲第五号証、乙第一号証、証人青木雅也及び証人山崎義孝の各証言、被告滝川の本人尋問の結果によると、本件事故の態様に関し、前記争いのない事実のほかに、次の事実を認めることができる。

(一) 本件交差点は、ほぼ北東とほぼ南西とを結ぶ道路と本件交差点からほぼ北西に向かう道路とからなる、T字型三叉路である(前記のとおり、当事者間に争いがない。)。

前者の道路は、北東行き車線が二車線、南西行き車線が一車線あり、各車線の幅員はいずれも約三・五メートルで、これらとは別に、両側に、路側帯及び歩道が設けられている。なお、北東行き車線と南西行き車線とは、本件交差点以外では幅約二・〇メートルの中央分離帯及びそこに設けられたガードレールで画されている。また、最高速度は五〇キロメートル毎時と指定されている。

後者の道路は、幅約六・〇メートルであり、車線の区別はない。また、本件交差点付近では、北西よりも西に寄った方向に向かっている。したがって、被告車両のように進行して右折する車両は、鋭角を構成する二辺を進行することとなる。

(二) 被告滝川は、被告車両を運転して本件交差点を右折するにあたり、本件交差点手前で一時停止し、右方五〇ないし一〇〇メートルの地点の北東行き路端側車線に軽自動車が、そのやや後方の北東行き中央側車線に山崎車両が、さらにその後方に青木車両が、それぞれ本件交差点に向かって直進してきているのを認めた。また、左方の同程度の距離の地点の南西行き車線に貨物自動車が本件交差点に向かって直進してきているのを認めた。

この時、被告滝川は、自車が安全に本件交差点を右折することができるものと即断し、自車を発進させて本件交差点に進入したが、左方から直進してくる右貨物自動車の接近が予測を上回って早かったため、自車の先端が中央分離帯の切れ目から南西行き車線にかかる付近で停止し、右貨物自動車の通過を待つ形となった。なお、被告車両の車長は六七八センチメートルであり、被告車両が本件交差点内で停止したことにより、その後部は北東行きの中央側車線のほぼすべてを塞ぐ形となった。

そして、右貨物自動車が本件交差点を通過した後、被告滝川が続いて自車を発進させようとした時、自車右側面後部に衝撃を受け、続いてその直後、再び、同部に衝撃を受けた。

なお、被告滝川は、本件交差点手前で山崎車両及び青木車両を確認した後は、第一衝突及び第二衝突にいたるまで、右各車両をまったく認識していない。

(三) 訴外山崎は、ほぼ北東とほぼ南西とを結ぶ道路の北東行き中央側の車線を、時速約六〇キロメートルで山崎車両を運転し、前方約五〇メートルの地点に自車の進行車線を塞いだ形で停止している被告車両を認め、直ちに自車に急制動の措置を講じるとともに左転把の措置を講じたが及ばず、自車の前面右部を被告車両の右側面後部に衝突させた(第一衝突)。そして、右衝突後、山崎車両は左前方に逸走し、本件交差点北角の畑に転落した。

(四) 訴外青木は、ほぼ北東とほぼ南西とを結ぶ道路の北東行き中央側の車線を、山崎車両との車間距離を約三〇メートルあけて、時速約六〇キロメートルで青木車両を運転していた。

そして、山崎車両のブレーキランプが点灯したのを認めて自車に制動措置を採り、山崎車両との車間距離が急速に狭まってきたのに対応して、急制動の措置を講じた。

その直後、第一衝突後の山崎車両の左前方の逸走により、前方の視界が開け、前方直近に停止している被告車両を認めたが、すでに講じていた急制動の措置以外には採りうるべき措置もなく、自車の前面右部を被告車両の右側面後部に衝突させた(第二衝突)。

また、青木車両は、第二衝突の衝突地点付近で停止し、被告車両は、第一衝突及び第二衝突の衝撃で、後方を時計回りに北に振った形となって停止した。

2  車両等は、交差点で右折する場合において、当該交差点において直進しようとする車両等があるときは、当該車両等の進行妨害をしてはならない(道路交通法三七条)。

特に、被告車両のように車長が相当長い自動車が交差点内で停止するときは、直進車両の進路を完全に塞ぐこととなるのであるから、充分に安全を確認した後でなければ交差点に進入してはならない注意義務があることは明らかである。

にもかかわらず、被告滝川は、右注意義務を尽くさず、自車が先に右折することができるものと判断して右折を開始したものの、本件交差点内に停止さぜるをえず、もって、本件事故を引き起こしたのであるから、その過失はきわめて重大である。

被告滝川の本人尋問の中には、左方から進行してきた貨物自動車の速度が予測よりも早かったために、被告車両が本件交差点内で停止せざるをえなかったとする部分があるが、右本人尋問の結果によると、被告滝川は、左右を一瞥して左右双方の車両の距離を確認したのみで本件交差点への進入を開始したことが認められ、各車両の速度も加味して左右の安全を充分に確認した上で自車が先に右折することができると判断したとまでは到底認められないから、被告車両の本件交差点への右折開始時点で、すでに、被告滝川には安全確認義務違反の過失があったというべきである。

他方、車両等は、交差点に入ろうとし、及び交差点内を通行するときは、交差道路を通行する車両等に注意し、かつ、できる限り安全な速度と方法で進行しなければならない(道路交通法三六条四項)。

にもかかわらず、訴外山崎は、右注意義務を尽くさず、最高速度を上回る時速約六〇キロメートルで漫然と自車を運転し、しかも、前方約五〇メートルの地点にいたるまで、ほとんど被告車両の動静には注意を払っていなかったというべきであるから、その過失も看過することができない。

なお、被告らは、山崎車両の本件事故直前の速度が時速約八〇キロメートルであった旨主張するが、前記のとおり、被告滝川が右速度を正確に認識していたとはいえず、他にこれを的確に認めるに足りる証拠はない。

そして、訴外山崎と被告滝川の両過失の内容を対比すると、他車の進行を一方的に妨害する形で被告車両を停止させた被告滝川の過失の方がはるかに大きいものといわざるをえず、具体的には、第一衝突に対する過失の割合を、訴外山崎が一五パーセント、被告滝川が八五パーセントとするのが相当である。

3  被告らは、被告滝川には第二衝突を回避することが不可能であり、過失はない旨主張する。

しかし、第二衝突は第一衝突の直後に発生しており、客観的には、北東行き中央側車線を完全に塞ぐ形で停止することを余儀なくされる状態であったのに、自車が先に本件交差点を右折することができるものと即断した被告滝川の過失と、第二衝突との間に、相当因果関係があることは明らかである。

したがって、第二衝突に関しても、被告滝川の過失は優に認められる。

他方、訴外山崎には、第一衝突に関し、前記のとおり前方不注視、速度違反の過失があるが、訴外山崎がより早期に被告車両の動静に注意を払い、適切な事故回避措置を講じていれば、第一衝突のみならず、第二衝突も防止しえたとするとこができるから、訴外山崎の右過失と第二衝突との間にも相当因果関係が認められる。

また、前記認定事実によると、訴外青木には、直前車両との安全な車間距離の不保持、速度違反の過失が認められ、いずれも、容易な方法により、第二衝突の発生を防止することができ、または、第二衝突が発生したとしても、青木車両の損害の拡大を防止することができたと評価することができるから、その過失は重大である。

そして、訴外山崎及び訴外青木は、本件事故当時、いずれも原告の業務に従事中であったことは当事者間に争いがないから、第二衝突における原告の損害を算定するにあたっては、訴外山崎及び訴外青木の両過失を一括し、これと被告滝川の過失とを対比するのが相当である。

そこで、右対比の方法によると、第一衝突について判示したとおり、他車の進行を一方的に妨害する形で被告車両を停止させた被告滝川の過失は、第二衝突との関係でもきわめて重大であるといわざるをえない。そして、訴外山崎及び訴外青木の両過失の内容、特に訴外青木の過失の重大性に照らすと、具体的には、第二衝突に対する過失の割合を、訴外山崎及び訴外青木を併せて五五パーセント、被告滝川が四五パーセントとするのが相当である。

二  争点2(原告に生じた損害額)

1  第一衝突に関する山崎車両の損害

(一) 損害

(1) レッカー代及び修理費用 金四三四万六四八七円(原告の主張も同額)

甲第二号証によると、山崎車両のレッカー代及び修理費用として、原告に金四三四万六四八七円の損害が発生したことが認められる。

(2) 休車損害 金五二万五〇〇〇円(原告の主張は金七四万〇八八〇円)

甲第二号証、第四号証の一、証人青木雅也及び証人山崎義孝の各証言によると、本件事故当時、山崎車両は、残土運搬の業務にあてられていたこと、右業務は原則として日曜日は休みであったこと、右業務により、山崎車両は、一日あたり金四万四一〇〇円の収入を計上することができていたこと、本件事故により生じた損傷の修理のため、山崎車両は平成八年一二月二六日まで休車のやむなきにいたったことが認められる。

そして、これらによると、山崎車両について、実稼働日数二一日間にわたって休車損害が発生した旨の原告の主張を認めることができる。

ところで、原告は、山崎車両の経費率は二〇パーセントである旨を主張し、被告らは、右経費率は少なくとも五〇パーセントあった旨主張するところ、右経費率がいずれであるかを認めるに足りる証拠はない。

そこで、民事訴訟法二四八条に基づき相当な損害額を認定することとし、弁論の全趣旨により、山崎車両の収入から経費を控除した後の利益を一日あたり金二万五〇〇〇円とすることとする。

したがって、山崎車両の休車損害は、右金員の二一日間分である金五二万五〇〇〇円となる。

(3) 小計

(1)及び(2)の合計は、金四八七万一四八七円である。

(二) 過失相殺

争点1に対する判断で判示したとおり、第一衝突に対する訴外山崎の過失の割合を一五パーセントとするのが相当であり、訴外山崎が、本件事故当時、原告の業務に従事中であったことは当事者間に争いがない。

そこで、過失相殺として、原告の損害から右割合を控除することとすると、右控除後の金額は、次の計算式により、金四一四万〇七六三円となる(円未満切捨て。以下同様。)。

計算式 4,871,487×(1-0.15)=4,140,763

2  第二衝突に関する青木車両の損害

(一) 損害

(1) レッカー代及び修理費用 金三三〇万一九八四円

(原告の主張も同額)

甲第三号証によると、青木車両のレッカー代及び修理費用として、原告に金三三〇万一九八四円の損害が発生したことが認められる。

(2) 休車損害 金四二万五〇〇〇円(原告の主張は金五九万九七六〇円)

甲第三号証、第四号証の一、証人青木雅也及び証人山崎義孝の各証言によると、本件事故当時、青木車両は、山崎車両と同様の残土運搬の業務にあてられていたこと、山崎車両と同様の収入を計上することができていたこと、本件事故により生じた損傷の修理のため、青木車両は平成八年一二月二〇日まで休車のやむなきにいたったことが認められる。

そして、これらによると、青木車両について、実稼働日数一七日間にわたって休車損害が発生した旨の原告の主張を認めることができ、山崎車両に関して判示したのと同様、青木車両の収入から経費を控除した後の利益を一日あたり金二万五〇〇〇円とすることとする。

したがって、青木車両の休車損害は、右金員の一七日間分である金四二万五〇〇〇円となる。

(3) 小計

(1)及び(2)の合計は、金三七二万六九八四円である。

(二) 過失相殺

争点1に対する判断で判示したとおり、第二衝突に対する訴外山崎及び訴外青木の過失の割合を併せて五五パーセントとするのが相当であり、訴外山崎及び訴外青木が、本件事故当時、原告の業務に従事中であったことは当事者間に争いがない。

そこで、過失相殺として、原告の損害から右割合を控除することとすると、右控除後の金額は、次の計算式により、金一六七万七一四二円となる。

計算式 3,726,984×(1-0.55)=1,677,142

3  弁護士費用(原告の主張は金六〇万円)

1及び2の過失相殺後の損害の合計は、金五八一万七九〇五円である。

そして、原告が本訴訟遂行のために弁護士を依頼したことは当裁判所に顕著であり、右認容額、本件事案の内容、訴訟の審理経過等一切の事情を勘案すると、被告らが負担すべき弁護士費用を金五〇万円とするのが相当である。

第四結論

よって、原告の請求は、主文第一項記載の限度で理由があるからこの範囲で認容し、その余は理由がないから棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法六一条、六四条本文、六五条一項本文を、仮執行宣言につき同法二五九条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 永吉孝夫)

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